ひとつの怖い夢を出発点に

 この世界には言葉で説明できないことがある。何かを伝えようとすればするほどに、それは手ですくった砂のよう指の隙間からさらさらとこぼれ落ちてしまう。

 だからその隙間を埋めるために写真を撮っているなどとは思わない。写真は言葉よりもとらえどころのないものだから。1から255までの階調を登ったり降りたりしているうちに、ピクセルの深い森の中で途方に暮れてしまう。なにより、説明されすぎている写真は少しも面白くない。報道写真なら、それはそれで成功しているのかもしれないけれど。
 明け方に夢を見た。僕らが放った言葉に、友人の姉は傷つき、深く崩れた。
 目が覚めて、言葉はどこかで抜け落ちて、どうしようもなく大きくねじ曲がって相手に届く事を思った。そして場合によっては人を傷つける。そのような時は、沈黙する他ないのだろうか。
 夢の主な出演者は旧友たちだったので、その顔ぶれに暖かな気持ちが次第に湧いてきた。そこには弟に対する姉の限りない愛があった。思えば、父を早くに事故で亡くし、母と兄弟三人家族で育った男だった。僕らは幼いながらもふざけながらも、最大限の敬意を込めて写真の中の記憶を紐解き、言葉にしていたのだ。

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