決してヒロインではない優しい登場人物のように

 僕には馴染みのバーはないけれど、馴染みの写真屋はある。毎週、フィルムの現像を依頼しているプロラボに通う。スタッフにすっかり顔は知られていて、名を名乗らなくてもテキパキと対応してくれる。
 深い話はしない。「プライチ、現のみ、バンキなしで」何かの作戦の指令のように、必要事項だけが簡潔に伝えられる。それはカウンター越しのマスターに、いつもの、というよりも冷酷に響く。そんなことをここ4年ほどやってきた。
 最近撮影システムを一新したため、これからお店に行く機会は格段に減るだろう。有能で美しいスタッフたちに会えない寂しさがこみ上げてきた。もしかすると、もう二度と会えないということもある。人はそれぞれの人生を生きているから。
 長いあいだ頻繁に顔を合わせてきたのに、僕は彼女たちのことを何も知らない。胸につけている名札の名前だけだ。最期のネガを受け取る時に理由を話し、今までありがとうございました、と言った。
 彼女は「デジタルになってもお待ちしております」とだけ優しく答えた。

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