渋谷の外れにある、事務所兼自宅から空を眺める。どうやら台風が来ているようだ。
しかしその空は、台風が来るとは思わせない、思わせぶりの空であった。
僕たちは宇宙と書いて”ソラ”と呼ぶことになれている。それは確固たる1995年を生きた世代であり、エヴァンゲリオンの何番目かの、誰かのどこかのチルドレンとして深夜放送を見ながら眠いがままに日中の義務教育に励んだ世代だからである。
物語の中では、2015年にセカンドインパクトが起こり、その後の世界が描かれている。
僕たちは思春期に物語を体験しながら、実際に今その時代になって、何も起こらなくて(もちろん悲劇的な出来事は世界中で起きてはいるけども)、どこまでも終わらない日常を当たり前のように生きている。

物語があって人生があるのだろうか。それとも人生があって物語があるのだろうか。
嵐がくるとは思えない快晴、コントラストとディヘイズを追加するのが正解、かはわからないけれど、ライカにしては幾分キャッチーな絵に仕上がった。
今回の台風はファクサイというらしい。
ファクサイがもたらしたサクリファイス。
「ファクサイ」は、ラオスが用意した名前で「女性の名前」です。台風の名前は、「台風委員会」(日本含む14カ国等が加盟)で各加盟国などの提案した名前が、あらかじめ140用意されていて、発生順につけられます。準備された140を繰り返して使用(140番目の次は1番目に戻る)されますが、大きな災害をもたらした台風などがあると、加盟国からの要請によって、その名前を以後の台風では使用しないように別の名前に変更することがあります。-日本気象協会
台風委員会によって提案した名前140個をローテーションでつけているという驚き。
僕は小学生の頃、”掲示委員会”にアサインされていて、校内の掲示物を貼ったり剥がしたりしていたわけだが、台風委員会の存在は知らなかった。やはり台風による被害が多めの国が一致団結したかたちで加入するのだろうか。14カ国は少ないかもしれない。おそらくアジア圏だろう。それにしても今回はラオスが用意した女性の名前ということで、日本で言うところの「花子」と名付けているようなものなのだろうか。そのニュアンスは判断し兼ねるが、ファクサイさんにはとても気の毒に思う。
都内の交通は混雑し、木々はなぎ倒され、いくつかの車両や建物が浸水した。
ファクサイが去ったあと、また夏が戻ってきた。

高温と湿気に包まれて、宇宙は紅く焼け、少し欠けた月がただそこに浮かんでいた。