スーツケース1つ分の衣類

ナチュラリストが海の見える家で暮らすことを熱望するように、ミニマリストはスーツケース1つ分の荷物で暮らすことを熱望している。

ミニマリストと名乗る多くの者達は、実際に1度は自分の持ち物をスーツケースにまとめてみた経験があるのではないだろうか。

しかしスーツケースを実際に部屋に置いて、自分の持ち物を眺めて、入れてみようと思った次の瞬間には、それが不可能であることを悟る。衣類、調理器具、PCやカメラ、衛生用品、チェスやオセロ、その他の細々としたもの。スーツケース本来の役割である衣類というジャンルに限っても、そこに収まらないことに絶望したことだろう。

モノではなく容器から持ち物を精査する、というのは整理術においてよく使われるテクニックだ。すなわち先にバッグや、タンスや、収納するスペースを決めて、そこに収まる分だけを持つと言う考え方である。入り切れないものは捨ててしまう。

この方法は、都民ファーストならぬ容器ファーストと呼ばれる。呼んでるのは俺だけだが。容器が、つまりバッグやタンスやスーツケースが好きで好きでたまらない人向けだ。好きな容器があってその容器を使うことを最も優先させる人にとっては有効かもしれない。(例えばLOUIS VUITTONのトランクやHERMESのバーキンとか)

極端に言うとそのような人は荷物は入れずにただその容器だけを持てば良いと思う。中身は何も入れず、そのバッグを使いたいがために持ち運ぶ。中身は何も入っていない謎の壺を部屋に置いているのも同じような種類かもしれない。完全に変態ではあるが、容器ファースト主義者の美しい姿だ。

実際ミニマリストにはこのような極端な容器ファーストは少なく、中身のモノを主体に考える荷物ファーストがほとんどだ。

ではスーツケースに持ち物を収めるにはどうしたらよいだろうか。

近道のようなものは残念ながら無いのではないかと考えている。

災害などで全てのものをなくしたり、または何らかのきっかけで収入が途絶えてホームレスになったりした人は、すぐにスーツケースひとつ分の荷物で暮らすことができるだろう。しかしそれは望んでものを無くしたわけではないから、いずれもっと増やしていきたいと言う方向性になる。

ここでは、自ら進んで物をなくしていきたいという人の場合だ。そのような人たちも、一日で一切合切すべての物を捨てたとしたら、スーツケース1つで暮らせるようにはなる。モノは限りなくゼロになるけれど、おそらく心が追いつかない。今まで多くのもので暮らしていたので、少ないもので暮らすことに心と体が耐えられないのだ。気づけば、あれが必要これが必要、また2 3日でスーツケースから溢れ出すだろう。

このように一日で物を減らすことは難しく、生活する中で、また買って、また減らしてを繰り返すうちに、少しずつ生活スタイルそのものを変化させながらバランスをとっていくしかないのだ。モノと心身と生き方のバランスを。

その過程は流行的で商業的で軽くてポップな「ミニマリスト」というよりどちらかと言えば「修行」に近い。

僕も日々そのような修行に明け暮れて(なんのためになるのか全く持って不明だが)、5,6年ほど経つ。

家具を除けば、全ての持ち物はスーツケースとバックパックひとつ分に収まるくらいにはなっている。

家では実際にスーツケースを衣類入れにしていて、衣類に関しては全てがこの35Lのリモワに収まる状態だ。

今身につけているものと、この中身が衣類の全て (2021年1月現在)

衣装ケースや、ハンガーラックの類いは一歳所有していない。容器ファーストの罠に陥る人は容器があるから入れてしまうのであって、最初からなければその中に入れるモノを持たなくてすむのだ。しかし先に述べたように、一度にではなく、生活の中で徐々に総数を減らしていかなければならない。マラソンで少しずつ距離を伸ばしていく感じだ。日々少しづつ繰り返し、気づけば長い距離を走れるようになっている。

撮影機材を軽量化したので実際の旅や移動でこのスーツケースを使う事はほとんどなくなった。両手が空くこと、移動のしやすさを含めて、旅はバックパック一択だ。(または手ぶら)

引っ越しや長めの滞在の際は、衣装ケースや段ボールを運ぶ代わりに、このスーツケースをひとつ運ぶだけである。そして通常は衣装ケースとして使用する。この楽さを覚えてしまうと、もう服をたくさん持つことや、収納ケースを持つことはできない。

スーツケースの中身についてもここで紹介したいところですが、紙面が残り少なくなってきたので他で書きたいと思います。近々ミニマリズムに関するまとまった文章を書く予定ですので、同じように修行している人はお楽しみに。

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