まるで新宿コンプレックス

日中は家で仕事をして、蕎麦を食べて小説を読んだ。仕事について突っ込んで書きたい欲望があるけれど、コンプライアンスや守秘義務が強すぎてまず書けない。特に本業である写真や広告業界というのは一月とか半ヶ月後に世の中に発表するような製品やサービスに関わるビジュアル制作をしているので、その経緯について話すことは訴訟問題に発展する。撮影した写真が世の中に出る頃には僕の興味はすでに別の写真に移ってしまっている。かと言って、周りの人たちのことについて書きすぎるのもプライバシーを侵害するのであまり良くない。誰々と会ったとか、誰々がペネロペ・クルスのモノマネをしていたとか、本当は書きたい。そうなると、書けることと言えば、何々を食べたとか、どこどこへ行ったというようなとても私的で凡庸な事実。それが日記の中核なのだからよいのかもしれないが、何か面白いのかなという気持ちもある。多分、何か面白くしてやろう笑わせてやろうという欲があるのだろう。蕎麦を食べることが本業だったなら、仕事についてしっかり書けるのだけど。

夕方頃に新宿に立ち寄った。「初めて上京して新宿に降り立った時、右も左もわからずさまよっていた。そしてそれから30年経った今でも、僕は変わらずさまよい続けている」というようなことを森山大道は「新宿」で書いていたけど、同じような気持ちだ。まだフィルムを使っていて新宿のラボに現像を出しに行っていた時は週に1度は必ず足を運んでいたし、中央線沿いに住んでいた頃は新宿が都内のあらゆる目的地への中継地点だった。中継地点であることは多くの友人も同じだったようで、よく駅ナカのビアバーで落ち合ってソーセージを食べ新鮮なビールを飲んで話しをした。新宿に来るといつもそういう初心的なものを思い出す。全ての人とネオンと音が混じる中、INO hidefumiアレンジのSpartacus Love Themeがどこかで流れているのが聴こえた。

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