
夜中に雨の音で目が覚めた。いつも以上に蒸し暑い。近くに蚊がいるのか、手足を数カ所刺されたようだ。かゆい。ここは最上階(ペントハウスと呼んでいる)だから蚊がいるはずはないのだけど、これからも出るようだったら何かしらの対策を講じなければならない。蚊・対策・室内みたいなキーワードでググるだろう。
二度寝して目覚めたらなぜか、佐賀の県知事が「とりあえず下北沢みたいにしたい」と発した言葉が浮かんだ。恐ろしいくらいにパワーワードだ。こういう言葉は文脈を外れたところで、ひとり歩きする。だから雨降り梅雨の月曜の朝に、全く関係もないのに突然僕の頭の中に出てきたりする。うん、とりあえず下北沢みたいにしたい。
美容院でも使えそうなフレーズだ。
「とりあえず、下北沢みたいにお願いします」
原宿のどんなに高い技術を持つ売れっ子の美容師でも、一瞬は戸惑うだろう。加茂克也さんなら「わかりました」とだけ答え、早速下北沢みたいにする工程にとりかかり、あっというまに下北沢みたいにしてくれるのかもしれないが、加茂さんは残念ながらもうこの世にいない。
どうやら佐賀県で整備が進められているSAGAサンライズパークのメイン施設「SAGAアリーナ」を下北沢みたいにしたいという話のようだ。
だけど“下北沢みたいに”とは一体どのようにだろう。
マックがあって、すた丼があって、ライブハウスと古着屋とレトロな喫茶店が多くて(結構潰れているけど)若い世代が住む街。多くの人が抱く印象だと思う。だけど、今まさに下北沢も変わっていて、ちょいと前の小田急線・井の頭線を地下に埋める工事から始まり、世田谷代田駅と東北沢駅を結ぶ形で、壮大な再開発計画が遂行されている真っ最中なのである。計画によると商業施設以外にも、学生寮ができたり、コミュニティスペースができたり、テラスハウスに、保育施設、ホテルと温泉までできるらしい。
そう、下北沢も下北沢なりにシモキタらしさに悩み、迷っているのだ。だから佐賀が下北沢を目指して開発を進めたところで、それができた頃には今の下北沢はもう無いわけです。変わり続けるから、永遠に追いつけない。街は生き物で一瞬一瞬姿を変えるというのは森山大道さんの言葉で、だから撮らなきゃと言うわけですね。
僕の下北沢の思い出と言えば、写真家ハービー山口さんの個展で訪れたことです。上京してわりと間もないころオアシスのロックTを着て本人と写真を撮ってもらいました。完全なただのファンです。当時は東のシモキタよりも、西のインド・高円寺吉祥寺派だったので、シモキタに行く機会は少なかったです。今になって住んでる渋谷からも徒歩圏内のため、フラっと立ち寄ることが多くなりました。そういうわけで、今日はとりあえず下北沢みたいな感じで、月曜がんばります。

シーン2だけど、一作目から最高のハービーさんによるエッセイ。写真と文章って、こういう組み合わせで語られるんだというお手本みたいです。
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