こんにちは、常丸です。
現在、東京オペラシティ アートギャラリーにて開催されている
アラーキーこと荒木経惟さんの写真展「写狂老人A」にようやく行ってきました。
会期は9月3日まで。ぎりぎり滑り込みセーフです。
大先生の展示はだいたい毎回観ているのですが、所見で感じたことを今回始めてまとめてみます。
構成
今回は集大成という感じではなく、膨大な荒木さんの作品の中から展示会場(オペラシティアートギャラリー)に合わせて、セレクトされた作品群という印象を受けました。新旧の混在の作品でした。
美術館クラスの会場での展示となると、二次元の写真はある程度の大きさが求められます。
そしてその空間にうまく収まる作品のスケールでなければなりません。
本来35ミリフィルムで撮影された写真は、特大プリントの引き伸ばしには耐えません。
荒木さんは中判も使いますが、35ミリを多様する作家ですので、その辺がどのように表現されているか楽しみでした。
構成は以下の通りです。
- 大光画
- 空百景
- 花百景
- 写経老人A日記 2017.7.7
- 八百屋のおじさん
- 非日記
- ポラノグラフィー
- 遊園の女
- 切実
感じたこと
何度も何度も観ている荒木さんの写真展ですが、今回改めて感じたことは以下の点です。
1、結構空、焼き込むなぁ
空百景シリーズ、全て手焼きのゼラチンシルバープリントが壁に10✕10のグリッドで100枚。
そして結構周辺の焼き込みが目立ちました。写真集で観ている時はそこまで気づかなかったのですが、やはり手焼きプリントを見れるのは展示の醍醐味です。圧巻でした。
2、これトキマルタナカの写真じゃね?
写経老人A日記 2017.7.7 ではアラーキーのシグニチャーとも言える手法、ビッグミニというカメラで撮られた日付つきの写真が順番に並べられていました。しかし日付は全て2017.7.7 になっており、亡き妻である陽子さんとの結婚記念日に合わせられています。
その中の一枚の写真にドキッとしました。

真ん中の写真にご注目ください。
そしてこれ

これは僕が2012年に同じカメラ、ビッグミニで撮影した写真です。
縦横・カラーは違えど、完璧に同じ構造ですね。
荒木さんの真骨頂であるこの私写真という日記のような手法は、個人的な事柄を生活の中で撮影するものです。個人的な物語を、掘って掘って掘り下げる事により、それは普遍化します。そして誰が観ても「どこかで観た風景」だったり「自分の過去の記憶」と重なってくるという構造を持っています。まるで自分が撮影した写真じゃないのかと錯覚するのです。そのトリックにまんまと掴まれました。
3、荒木の写真には全てあるなぁ
1964年に撮影された”八百屋のおじさん”。会社の昼休みに、近くに野菜を売りに来るおじさんをひたすら撮影してまとめたもの。
人物だけではなく「関係性や空間を含む範囲」で撮影されているので、当時が全て写っています。
ファッション、ポートレート、風景、建築。
ただのスナップに見えて、実はこのような全ての要素を含んでいる。
まるでドストエフスキーの総合小説を読んでいるような感覚。恐るべしです。
4、デジタル、やるんだ!
非日記シリーズは、カルティエ現代美術財団との記念プロジェクトですが、デジタル写真です。
荒木さんのデジタル写真は今回始めて観たような気がします。
まず最初に受けた印象は、森山大道のデジタル写真と似ているな
ということでした。
荒木さんが多用する、女、食、影、空、群衆、というモチーフは変わらず、しかしデジタルであるという点でどこか浅く軽やかな感じを受けました。
デジタル写真のレンジの幅が、良くも悪くも作家性を消失させるのかもしれない。
5、ポジだなぁ
遊園の女、は着物を着た女性をエキゾチックなイメージの象徴として表現した、荒木さんのアイコン的な作品です。
着物や畳、日本家屋、そしてSYUNGA というローマ字タイトルの書物がプロップとして使われていたりと、海外に向けて意図的に、それも強力に印象づける写真群です。
おそらくカメラはペンタ67、それにポジフィルムを使い、更に発色現像方式でプリントされています。
故に、艷やかで、エロさ全開となっていました。
6、人妻エロスはカラーの方がエロい
会場に入って、最初の部屋で盛大に展開されるのが「大光画」です。
週刊大衆という雑誌で連載されている「人妻エロス」という企画をまとめたもの。
以前にカラーのバージョンを観たことがあるのですが、今回はオールモノクロの特大プリント。
カラーの方がエロく感じられるのですが、今回のモノクロの統一は、女性の肉体の美しさを賞賛するという方向で、効果を上げていると感じました。感服です。
7、先生、写真集出しすぎです
展示の最後に荒木経惟、著作リストがスペースされていました。

荒木さんは多作な写真家として知られていますが、どのくらい多作なのかというと
1970年から毎年、年間20冊のペースで写真集を出し続けていて
2017年現在、520冊目 というくらい多作です。
「才能がありあまり過ぎて、死ぬまでに使い切れそうにないのが悩み」
という本人の言葉は、決してパフォーマンスではありません。
年間20冊というのは、月に一冊以上作っているということです。
僕は9年間のこれまでに、自作・他プロジェクト含め5冊の写真集を制作しました。
田中常丸、9年間でたった5冊です。写真集を作るというのは、かなりの労力と体力が必要であることを認識しています。
恐るべし才能。「写狂老人A」
まさに展覧会のタイトル通りですね。

明日までですので、写真ファンの方は体験したほうが良さそうです。
ほな。
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