こう言ったら香港が機嫌を悪くするかもしれないけれど、香港では海老ワンタン麺にしか用は無い。
もちろん、人それぞれ香港の楽しみ方はあると思う。中国から独立した特別行政地区であり、イギリス文化を色濃く残しながら、広大な南シナ海に面した港町を有する自由貿易地域なのだ。
1100キロ平米ほどの決して広いとは言えない土地に、700万人が住み、ひっきりなしに観光客が訪れ、アジアにおけるビジネスの最重要拠点だ。一人あたりのGDPも高く、アジア圏の世界都市ランキングではシンガポール、東京に次ぎ、第三位。個人資産10億ドル以上を保有する大富豪が68人いて、ニューヨークに次ぎ世界で第二位(2016年、ウィキペディア)の国である。
しかし、世界三大夜景も、香港ディズニーも、ショッピングも、カジノでのギャンブルにも興味がない僕にとっては、もう海老ワンタン麺にしか用が無い。
何より僕は香港の海老ワンタン麺が大好きなのだ。
10年ほど前に初めて訪れて以来、トランジットの度にここぞとばかりに海老ワンタン麺を食べてきた。
最後に訪れたのは4年前の夏、インドネシア行きのトランジットだった。空港について速攻海老ワンタン麺を食べ、町へ出て海老ワンタン麺を食べた。それからホテルにチェックインし、写真を撮りながら夜の町をぶらついて、お腹が空いて海老ワンタン麺食べる。朝起きて空港に直行し、海老ワンタン麺を食べて次の目的地に向かう。
これは海老ワンタン麺中毒としか言いようがない。
東京で4年の歳月を無駄に怠惰に過ごすうちに、何か物足りなさを感じていた。何も成し遂げてはいない、しかし日々食べるだけの金銭を稼ぎ、信頼できる仲間もいて、雨風しのげる家もあって、ある程度楽しく忙しく、この場所でミニマルに生きている。
だけれど、僕の中の奥深くにある何かの炎のようなものが消えかかっているような気がした。
「そうだ、海老ワンタン麺が足りていない」
瞬時にチープチケットをとることが出来たので、一泊二日の弾丸で行くことにした。
目的はただ1つ。海老ワンタン麺を食べること。
気づけば僕は、カバンも着替えも何も持たず、手ぶらで香港へ向かっていた。
参照記事:フォトグラファーの旅の持ち物 手ぶらで香港編
麥文記麵家 Mak Man Kee

空港から九龍駅まで、エアポートエクスプレスで向かう。片道100HKD、1300円程、20分程で到着する。九龍駅から歩いて10分程。飛行機を降りて1時間以内でありつける中で、僕が最も美味しいと思う海老ワンタン麺だ。
だいたいどこの海老ワンタン麺も美味しいが、ここは到着して最初ということもあり、染み渡り方が違う。
写真には写っていないけれど、麺の下に伝説的な海老ワンタンが隠れている。
最初から海老ワンタンを見せないというのもにくい。僕のリサーチでは香港にはビーフン麺タイプと、ライス麺タイプの二つが存在するが、地元民に一般的なのは、こちらのビーフンタイプのようだ。
こじんまりとしてミニマルなスタイル、かなり海鮮出汁の効いた優しいスープ、とれたてオーガニックのぷりぷりな海老。
わずか小一時間で旅の目的は達成された。
もう帰ってもいい。
沾仔記 Tsim Chai Kee

もう一つのおすすめはここ。
麥文記よりもスープの甘みが強いが、海老のサイズ感と味が良い。何より全体的なバランス感。備え付けのラー油のようなものを入れると更に美味しくなった。他に野菜系等、幾つかバリエーションを選べるのもポイント高い。
結構話題の店なので、客が並んでいることが多い。
香港に来てまで並びたくはないけれど、海老ワンタン麺の為なら?

中華といえば化学調味料、というようなレッテルがあるけれど、今回、無添加をうたう海老ワンタン麺屋も増えてきている印象を受けた。
香港は平均寿命が男女とも世界1位の長寿国だって、調べるまで知らなかったんだけど、これは海老ワンタン麺の効果ではないのだろうか。
未経験の方は是非一度御賞味を。
香港の旅の写真はこちらで連載中です。

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