家で仕事をして昼食に出る頃にはもう随分雪が降り始めていた。馴染みの定食屋でブリの照焼を食べた。会計をしてもらって店を出る時におばちゃんがカメラを持っているのに気づいて言う「今日は良いのが撮れそうだね」そうですね降ってますもんね、なんて返しながら内心感心した。この人は雪の日に良い写真が撮れるということを知っているのだ。天候という外的要因は滑ったり転んだり事故ったりというのを含めて確かにハプニングを誘発する。いつもと違う人間の行動が現れるという点で、普段見慣れない光景はそのまま写真になりやすい。経験上からも言えることだし、ある写真家からもそのように教わった記憶がある。実際、雪が降ったり嵐が来たり(ジャニーズのほうも含む)桜が咲いたりすると人は誰でもカメラを向ける。
そんな写真日和なのに撮れなかったらどうしようという不安に駆られながら雪の降る渋谷を少し歩いた。写真日記を書き始めて毎日同じような不安がある。楽しめているならそれはスリルなのか。仕事もまだ残っているし、雪はどんどん強くなるしで傘を持っている手が冷たくなり感覚がなくなってきたところで事務所に戻った。バッテリーも寒さにやられたのか残量低下の電池マークが赤く点滅していた。撮れなさに絶望しながら、濡れた服やカメラを拭いた。あたりが暗くなる頃、外から子供のはしゃぐ声が聞こえた。雪だるまをつくったりしているのだろう。彼らの方が良い写真を撮りそうだと思いながら、明日は何か撮れるかもしれないと思った。フルタイムの釣り人も同じような気持ちだろうか。
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