シブヤパトロール

1月8日から二度目の緊急事態宣言が発令され、飲食店の営業が夜8時までとなった。

一人暮らし独身、持ち物・子供なし、職業不詳・住所渋谷の僕にとって、飲食店が8時までしか営業しないことのほうが緊急事態である。緊急事態すぎて、何かを漏らしてしまいそうだ。
「歳をとるにつれて、身体のいろんなところが緩んでいくぞ、しっかり締めておけ」
と先輩たちから笑い話で聞いていた言葉が、だんだん笑い話ではなくなっていくような、そんな感覚がある。

移動が制限され毎日渋谷をぷらぷらしている身としては、お店が本当に8時までしか開いていないのか気になるところである。”ぷらぷらしている”と言うと怪しまれるので、親や友人にはパトロールしていると言っている。シブヤパトロール、渋パトである。お巡りさんに職質を受けそうになった時も、こっちもパトロールしているんですよという言い訳が通用するし、パトロールの雰囲気を出しているのでなかなか職質もされなくなる。渋谷においては背筋を伸ばして、普通の服を着て、カメラをぶら下げて観光客然とした顔をしておけばとりあえずは大丈夫だ。

連休初日に世間の様子を伺おうと、シブパトを行った。そこにあったのはいつもとそんなに変わらない、ただの渋谷であった。検温とマスクの風景はあるものの、いろんな場所でイベントが行われていた。飲食店も8時には閉めなくてはいけないので、昼から飲みましょうよと普段はできない提案をしている。なんとなく浅草や上野のような、あるいは南の島のビーチリゾートのような歓楽な雰囲気があった。

店が売上を伸ばせるかはさておき、8時までに飲みを切り上げるのも良いなと思った。昼や夕方頃からおっぱじめてしまうのである。旅に出るときに新幹線や空港で、時間帯に関係なく(それが早朝のフライトであっても)おっぱじめて初めて、旅が始まるということを冒険者=おっぱじめボーイズたちは無意識のうちに体得している。8時に切り上げて夜は早く寝て、朝早く起きて健康的な生活を送れるかもしれない。ポジティブに言えば飲酒に8時強制終了という有限性を付与されたのだ。

さて8時以降に小腹が空いたので、実際に食事処を巡ってみた。今回も小池さんとガースーの言うことは誰も聞いていないので(特にここ渋谷では)、食にありつけるだろうと楽観的に考えていたが、行きたかったほぼ全ての店が見事に8時で閉店していた。それもそのはず、休業補償は6万に引き上げられ客単価の低く小規模な店は昼営業して毎日8時に締めて補償を受けたほうが月間総収益は上がるのだ。繁盛していない店ほど閉めちゃったほうが良い、という状況になっている。

まだ8時なのに静かになった渋谷は、僕に長崎の田舎を思い出させる。海辺に移動式のラーメン屋台だけがぽつんとあるような、田舎の港町。遺跡を訪れ遠い過去に栄えた文明に思いを馳せる冒険家になったような気がした。どことなく悲しく、虚しく、そして寂しい。渋谷=田舎、渋谷はもうかつてのシブヤではなく既にイナカなのではないだろうか。

街は人がいてこそ街になるのだという事実を無慈悲に突きつけられたような、そんなシブヤパトロールだった。

Shibuya, Jan 10 2021 ©tokimarutanaka

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