テーマソングとマイルズデイヴィス

 気がつけば、いつの間にやら聴いている、という音楽がある。新年、陳腐でチープな自宅のスピーカーから流れ出した、それはもちろんMiles Davis。Kind Of Blueという1959年のアルバムだった。演奏メンバーは Julian Edwin “Cannonball” Adderley, Paul chambers, James Cobb, John Coltrane, Bill Evans, Wynton Kelly。あまりに有名すぎて、僕がここで語れることは何もない。
 ジャズを聴き始めた10代の終わり頃、最初に聞いたマイルズのアルバムで、それ以来ずっと聴いている。アイチューンズの再生回数は420を示しているが、トータルではおそらく1000回以上は聴いているだろう。(次はArt Pepperの[Art Pepper Meets The Rhythm Section]となっておりこちらは336回)部屋で午前中に聞くことがなぜか多い。特別に何か悲しいことや嬉しいことがあった時に聞くというわけではなく、何もない時にだいたい決まって流れている。あるいは、朝食をとるのに適した音色なのかもしれない。人と出会って、別れて人生は続いてゆく。でもこの音楽だけはずっと変わらない。生活に寄り添うというと大袈裟だが、これはもうテーマソングと言ってもいいかもしれない。もしこれが映画だったら、クライマックスを欠いた、大層つまらないものになるかもしれないけれど。
 人は誰しも、テーマソングを持っている。写真家のレスリーキーさんにとって、それはユーミンだろう。バスケットボールプレーヤーの石井さんは、Queenのwe are the championを必ず試合前に。人類学者の東さんは、EminemのLose yourselfを聴いて勝負に出る。
 マイルズは自身の伝記の中で「音楽を作るという行為は、スピリチュアルなもので、最も神的領域に近い場所で行われる」と言う。[注1] そのように創られた音楽たちは、僕たちを勇気づけ、励まし、時に癒し、楽しませてくれる。生活を、人生を少しだけカラフルなものにしてくれる。このような音楽を生み出すアーティストに、感謝の気持ちでいっぱいだ。
[注1]
“MILES THE AUTOBIOGRAPHY” with Quincy Troupe 1989 by Simon&Schuster, New York

村上春樹さんに「文章自体がスウィングしている」と言わせた名著。翻訳ではなくオリジナルで読むことを推奨。僕も昨年英語のペーパーバック版で読みましたが、大変面白かったです。マイルズの歴史を辿るということは、ジャズの歴史を辿ることであり、ビバップの派生からジャズの終焉まで。まるで本人がそこで語っているかのようなfワードsワード、スラング連発ノリノリの文体ですが何せ面白いので一気に読めてしまいます。マイルズ周りのオールスターも勢揃い。ドラッグカルチャーの資料としても。とことん細かく恐ろしくリアルな描写です。

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