無人チェックアウト有人席

長崎にいる。朝10時にホテルをチェックアウトして博多駅から特急みどりで佐世保へ向かった。カウンターでのチェックアウトが不要のホテルで、コロナ対応で最近そういうところが増えている。それで思い出したのは手元のタブレットで注文するような類の飲食店のこと。人間が仕事をするのがまるで絶対悪であるかのような風潮は加熱しすぎている感じもある。そしてそれは効率化とコロナ禍をごちゃ混ぜにして進行している。ホテルくらいは、行ってきます、行ってらっしゃいの掛け合いがある方がその後の動きにメリハリが出る。なんとなく、チェックアウトしている感が無いのだ。まだ滞在していてちょっと出かけている感じ。次の滞在まで外出の延長だと捉えることもできなくはないがそれはそれで放浪者にすぎるし時間軸を履き違えた人みたい。月曜日のせいか特急列車は満席に近く、出張中のサラリーマンと相席になった。座った瞬間に、今まで何度も出張しているけど横に人が来るのは初めてです。と隣の50歳を過ぎた間違いなく部長クラスの人が言った。その前の席には部下らしい人が座っていて、部長は僕が座るはずの席に置いていた荷物を前に移動させた。二人で隣同士に座ればいいものの別々に指定席を取っているらしく、数駅進むと前の席にも海外からの旅行者が乗ってきた。隣の部長は話好きだったようで色々な話をしてきた。これから佐世保経由で宇久島までいくこと。普段は名古屋を拠点にしているが仕事の関係上、北や南に頻繁に出張していること。そのせいで長時間座ることになり坐骨神経痛を患ったこと。それには電気バリがとても良く効いて、二回通院したら完治したこと。坐骨神経痛にならないためには、バスでも列車でも座席は倒さない方が良いこと。列車の中で小説の続きを読もうとしていたのだが、本を開く前に佐世保に到着して、気をつけて行ってらっしゃいをお互いに交わして別れた。それはホテルのチェックアウトで言われなかった言葉の代わりに思えた。

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