忘年会に持って行くカメラについて

 ”旅行に持って行くべきカメラ”はしつこいほど特集されても、”忘年会に持って行くべきカメラ”は紙面での特集はおろか、考察すらされないまま180年の歳月が流れました。写真史が始まって以来のことです。今日は少しだけ考えてみます。興味のある方はカメラの名前を検索してみてください。
 ディアドルフ8×10はどうでしょうか。初めから話の腰を折るようですが、今まで一度もこのカメラを忘年会で使用している人を見かけたことはありません。蛇腹によりテーブル越しの近距離撮影は可能ですが、大きすぎて邪魔です。三脚も立てなければならないので、入店の時点で断られる可能性もあります。シートフィルムなのでフィルムチェンジにも時間がかかりますし、一枚撮影するのに850円、現像で1500円かかります。アンセルアダムスですら忘年会では使わないカメラです。その日の撮影が終わって20キロの機材を担いだまま忘年会に参加した可能性はありますが、却下です。
 ペンタックス67はどうでしょうか。スティーブンマイゼル、マリオソレンティ、ブルースウェーバー等、ファッションフォトグラファーの巨匠達も御用達の名機です。アラーキーは今でも使っていますね。とにかくシャッター音が大きく派手なので、うるさい忘年会でも目立ちそうです。解放値の浅いレンズを使えば暗いお店でも使えます。ただやはり大きいです。ディアドルフほどではありませんが、どでかいおにぎりみたいにゴロッとしていますので、テーブルの上に置くとどでかいおにぎりに間違われるか、確実に邪魔だと怒られます。汗が染みて汚れたストラップなんかつけていると、一気に忘年会ムードが下がってしまいますので注意が必要です。
 ライカM3、コンタックスG2はどうでしょうか。カメラ好きのおじさんや、写真同好会の忘年会などでは持参する方も多そうです。ただしライカはマニュアルフォーカスなので、少し酔ってくるとピントが問題になってきます。そこに老眼という問題も重なってきますので、後日メンバーとシェアできる写真は少ないかもしれません。ぎりぎりテーブルの上に置けるサイズですが、やはり邪魔です。そしてお酒をこぼすと精神的ショックが大きいのもこの手のカメラの弱点かもしれません。それらしか使わない木村伊兵衛さんやアンリカルティエブレッソンさん、ウィリアムエグルストンさんやヨーガンテラーさんは気にせず忘年会に参加していると思います。(ブレッソンは忘年会参加するんでしょうか)
 ヤシカT4、コンタックスT2、ビッグミニはどうでしょうか。この辺は大分適していそうです。フォーカスもオートで押せば撮れる。フラッシュも付いているので暗い室内でも大丈夫。日付も入るのでアリバイにもなるし証拠にもなり、何にもならなくても無駄にドキュメンタリー性が出せる。首からぶら下げておけば誰の邪魔にもならない。よさそうです。親密で軽快なスタイルを持つ多くの写真家に愛されてきたカメラでもあります。テリーリチャードソン、ライアンマッギンレー、サンディキム、ウォルフガングティルマンス、アラーキーにヒロミックス。写真キッズみんなのヒーロー達といった顔ぶれです。海外ではテリーのシグネチャーと認識されており、仕事(写真業界)で他の人が使うことはまずありえないという雰囲気はありますが、忘年会ならば許してくれそうです。問題は小さいカメラなので、酔ってどこかに置いて失くしてしまうということくらいでしょうか。
 ニコンD800やキャノン5Dのようなデジタル系はどうでしょうか。大きくて邪魔ですが、これらは確実に忘年会を捕えることができそうです。ただいまひとつ面白みに欠けますね。サンディみたいな、やんちゃで可愛くストリートな女の子が、ニコンのどでかいフラッグシップ機をぶら下げているのは許せるのですが、おっさんが普通に忘年会にぶら下げてくるのはどこか許せないところがあります。なぜでしょう。
 さて様々なカメラが出てきましたが、忘年会に持って行くカメラを選ぶことはなかなか難しい事のように思えてきました。僕自身は忘年会ではあまり撮らず、その前後で撮ることが多いような気がします。その理由の一つは、忘年会の写真はただの飲み会の写真にしかならないからです。飲むと得体の知れない何かに変化する者や、顔が赤くなる事を不快に感じる方もいるので撮影者はその点に十分留意する必要があると考えています。モノクロで色情報を無くす、というのは治安の悪い海賊の酒盛りのような忘年会をできる限り美しく見せる手段としては有効かもしれません。赤ら顔も無くなり、表情だけが生きてきます。ただし、得体の知れない不快な何か、はモノクロームでも写ってしまうのです。
 もう一つの理由は、撮影していると忘年の波に乗り遅れるということです。会話もろくにせず終わってしまい、忘年会に参加しているようで実は自分だけ2016年に取り残されたという事になりかねません。
 オブスキュラに始まり、カメラは時代とともに進化してきました。そして今後もテクノロジーの進歩に相まって、確実に変容して行く機器です。忘年会に持って行くカメラについては、これからも引き続き、定期的な考察と活発な議論を望みます。
 結論。忘年会には身体ひとつで参加し、心のシャッターを押し続ける。重要だと思う場面は、時々、iPhone。

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