「どのカメラがいいですか?」

 人からよくこの質問をされる機会があります。

 その繰り返される終わりなき問いに対して一言「知らん」と僕は答えています。少々冷たく聞こえるかもしれませんが、実際にその人が使うカメラを選定するということは、今晩の献立を勝手に決めるようなものだからです。写真と関係のない場面で名刺交換をしたり、自己紹介をすると、会話のビッグウェーブに乗ってその問いはどこからともなくやってきます。写真を撮っている方は、同じような質問を少なからず一度は受けたことがあるのではないでしょうか。
 現在、東京国立近代美術館でトーマスルフ展が開催されています。ドイツの写真家で、僕のように(天と地ほどの差はありますが)本当になんでも撮る現代美術の領域に位置する重要な作家です。本展示はプリントがとても大きいです。さらに原美術館では篠山紀信さんの「快楽の館」と題した展示が開催されています。こちらもプリントは大きいですが、全てヌード写真です。
 カメラは機械ですので、調理道具のようなものだと思っています。ジャガイモの皮を剥くときにピーラーを使う方もいれば、包丁を使う方もいる。確かに一流のフレンチの厨房で使う道具は、一般家庭で使われないかも知れません。しかし、使おうと思えば(それが手に入りさえすれば)使うことは可能です。同じ包丁でも切れ味は違うし、癖がそれぞれにある。カメラもそれと同じことなのです。
 ルフや篠山さんが使うカメラで、友達や家族のスナップ写真を撮ることもできますし、逆もまたありなのです。確かに美術館クラスの作家は、解像力の点から大きなフォーマット(フィルム)のカメラを使う傾向にあります。しかしそれは写真の良し悪しとはまた別の話だと思っています。
 そういうわけで、初めての人の前ではあまり写真をやっていると大きな声で言えないのですが、カメラをぶら下げているとすぐにバレます。「どのカメラがいいですか」シンプルですが深い問いです。
 でもあえてルフや、篠山さんに聞いてみたいですね。どういう答えが返ってくるのだろう。

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