50mmが心地よい理由とは

写真を始めたばかりの頃、ブレッソンロバートフランクに憧れて50mmレンズを手にとった。最初に学ばせてもらった撮影の会社には幸いにもフィルム時代からのベテランの先輩方がたくさんいたので、50mmだけで撮ることの重要性を聞かされたりした。仕事にも写真にも慣れてきた頃、極端なミニマリズムに走ってフィルムのボディと50mmレンズだけを残して、他のデジタルカメラやレンズを全て手放した時期がある。もちろんそれで仕事になるはずもなく、しばらくして結局デジタルを買い直すわけだが、50mmでの撮れなさを実感する期間としてはよかった。あれから8年ほど経って、今この写真日記を書いていることもあって、また再び50mmだけで撮っている。以前よりもしっくりくるというか、この距離感がますます好きになった。何が変わったのだろう。よく年齢と焦点距離は比例するなんて言われる。つまり、20代のころは24mmや28mmを使い、30代では35mmになり、50歳になると50mmになるというようなやつだ。単純に、身体能力の衰えによりフットワークが利かなくなるので、望遠に頼るということだと思うが、そのような身体能力とは別の写真的な身体性を獲得するからではないか。それでなぜか思い出すのはビルカニンガムがニコンボディとマニュアルの50mmでストリートで撮っている姿。80歳を過ぎた彼は85mmではなく、50mmなのだ。もう一つ、ある写真家の先輩に言われた「50mmというのは海外で移動中に知らない人を撮らせてもらうのにちょうどいい。35mmだと初対面では近すぎるんだよね。友人とか恋人なら35でいいんだけど」という言葉もずっと残っている。50mmの心地よさというのはどうやらそのような人物撮影時の距離感の中にありそうだ。

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